日豪、米にらみ協調 TPP主導に対抗 EPA合意
2014年04月08日
日本と豪州の経済連携協定(EPA)交渉が大筋合意に達し、来年にも発効する。豪州産牛肉の関税は最終的に半額程度となり、牛肉価格はより安くなりそうだ。生産者らの反対で交渉は7年間続いたが、決め手となったのは、環太平洋経済連携協定(TPP)を主導する米国に対抗したい日豪両国の思惑が一致したことだった。▼1面参照「大筋合意は両国の緊密化にとって歴史的な意義がある。早期の署名に向けて作業を進めたい」
7日夕にあった首脳会談後の記者発表で、安倍晋三首相はそう成果を強調した。一方のアボット豪首相も「歴史的な意味をもつものだ」と応じた。
日豪がEPA交渉を始めたのは2007年4月。それから7年間もかかったのは、日本が牛肉にかけている38・5%の関税の下げ幅をめぐり、両国の溝が全く埋まらなかったからだ。
それが一転、冷凍牛肉を協定発効後18年目で19・5%に、冷蔵牛肉を15年目で23・5%まで下げることで折り合えた背景には、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の停滞がある。
交渉関係者は「豪州はTPPより先にEPAをまとめて、牛肉の関税率で米国と差をつけたいという意向が強かった」と明かす。実際、豪州との交渉は、TPP交渉で目標に掲げた昨年末の妥結に失敗した直後の1月から急に加速した。
豪州から日本への輸出のうち、関税がないエネルギー資源をのぞくと、輸出額トップは牛肉だ。ところが、06年には50%だった日本国内でのシェアは米国産牛におされ、昨年は32%まで低下。そこで、米国より先に関税を下げてもらい、シェアを奪還したい考えだ。このため、豪州は発効直後の下げ幅にこだわり、1年目に冷凍で8%分、冷蔵で6%分の関税を一気に減らすことになった。
日本にも、TPP交渉で隔たりが大きい米国の強硬姿勢を崩したいという思惑があった。米国は日本に牛肉などの関税撤廃を求め続けている。だが、米国産牛を豪州産牛より劣勢に追いやることで「米国が交渉を急いで譲歩してくる」(交渉関係者)と計算する。
■他の通商交渉に弾み
豪州とのEPAがまとまったことで、TPPに加えてほかの通商交渉にも弾みがつきそうだ。日本はこれまで、スイスやインドなど13の国・地域と経済連携協定(EPA)を結んだ。豪州は、米国、中国に次いで日本の農産物輸入額が3番目に大きい農業大国だ。
豪州とは、牛肉関税を約半分に下げるという「前例」をつくった。これをてこにして、農業分野でも関税引き下げを受け入れる土壌ができれば、ほかの国との通商交渉も進めやすくなる可能性がある。
安倍政権は昨年まとめた成長戦略で、自由貿易協定(FTA)を結んだ国との貿易額が全貿易額に占める割合を現状の19%から18年に70%まで高める目標を掲げた。豪州との合意で比率は約4%伸びるが、目標達成には交渉中のTPPに加え、日中韓のFTA、EUとのEPAなどをまとめる必要がある。
いずれも高関税を維持したい農産品の市場をどこまで開くかが最大の焦点となる。だが、関税撤廃に対する国内農家からの抵抗はなお強い。相手国があくまで「撤廃」にこだわれば、いままでと同じように交渉の停滞は避けられない。
■牛肉・ワイン、豪州産存在感
大手スーパー「イオン」の都内のある店では7日夜、牛肉が並ぶ棚の半分を豪州産が占めた。中心は、抗生物質などを使っていないことが売りの「タスマニアビーフ」。直営農場を設けるなど力を入れてきた。
「ステーキ用モモ肉」は100グラム税込み298円。近くの棚にあった「黒毛和牛モモ肉」(615円)の半値以下で、消費者の支持を集める。イオンは「価格や需給にどのような影響が出るかを見極めたい」(広報担当)とするが、長期的にコスト削減につながることは間違いない。
豪州産の冷蔵牛肉は、都内の大手スーパーで100グラムあたり180~300円程度で売られることが多い。600円程度の和牛や300~400円の国産牛より安く、輸入牛肉では米国産と並ぶ「定番」だ。より安くなれば、売り場での牛肉の「勢力図」に変化が生じる可能性がある。
豪州産牛肉は日本で消費される牛肉の約32%を占め、約6割を牛丼の具材やハンバーグの材料などに使う冷凍牛肉が占める。
「関税が下がれば(原価が下がる)メリットが出てくるので歓迎したい」
牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングスの広報担当者はこう話す。同社の看板商品は、1杯270円(税込み)の牛丼並盛り。いまは豪州産と米国産の牛肉を混ぜて使っているが、豪州産が安くなれば、コスト削減につなげるため、比率を高める可能性がある。
輸入ワインでシェア4%程度の豪州産ワインも、存在感が高まりそうだ。
12年度に国内で消費されたワインの7割は輸入ワインで、1本1千円以下の安いワインが消費量を押し上げた。豪州産もこの価格帯が多く、飲料大手は「関税撤廃でより安くなれば、輸入量の増加が目立つチリ産とともに、シェアを伸ばす」(広報)とみる。
【図】
牛肉などの店頭価格と市場シェア
《朝日新聞社asahi.com 2014年04月08日より引用》