20200126

[スキャナー]森林火災 豪悲鳴 観光打撃 希少動物被害


2020.01.26

◇SCANNER

オーストラリアで森林火災が猛威を振るっている。多数の犠牲者を出し、野生生物にも多大な被害を与えている。経済面でも巨額の損失が見込まれ、深刻な影響が広がっている。(オーストラリア南部・カンガルー島 一言剛之、写真も)

■「聖域」無残

豪州南部のカンガルー島は、カンガルーはもちろんコアラやアシカ、カモノハシなどが生息し「野生動物の聖域」と呼ばれる。この島で、昨年末から年明けにかけて猛烈な火災が発生した。焼失面積は島の半分に及んだ。東京都とほぼ同じ広さだ。住民2人が死亡し、家畜の羊は約10万匹が焼死したり、重傷を負ったため処分されたりした。

火災鎮圧が宣言された直後の22日、島を訪れた。被害の激しかった島西部では、あちこちで10メートル以上の高さの松の木が焦げて倒れ、低木が茂っていた一帯は黒ずんだ灰に覆われている。動物の姿はなく、餌を探すオウムやカラスが所在なげに辺りを飛んでいた。

黒く焦げた木々は、倒木による二次被害を防ぐため、次々に伐採されていた。作業に当たっていたアダム・ジョーンズさん(42)は「島西部の樹木は、ほとんど死んでしまった」と嘆いた。観光関連の企業約200社でつくる協会の代表を務めるピエール・グレゴールさん(71)は「海外客の足は完全に止まった。イメージ回復が急務だ」と話していた。

■33人死亡

豪州では昨年9月以降、東部や南部を中心に森林火災が続いている。焼失面積は日本のほぼ半分に相当する約19万平方キロ・メートルに達した。消防士ら33人が死亡、家屋など2500棟以上が被害を受けたとみられる。

火災被害が広がった要因は、昨年後半から干ばつが長期間にわたり、植物が乾燥しきったところで夏場の熱暑が続いているためだ。豪州の気象当局は9日、「2019年は観測史上、最も暑く、最も乾燥した年だった」とする報告書を公表している。コアラの好物としても知られ、豪州東部に広がるユーカリは、樹皮や葉が燃えやすいことも被害拡大の一因となっている。

気象当局によると発火原因は、落雷や枝や葉の摩擦によるもの、火の不始末や放火など人為的なものと様々。森林火災は燃え広がると食い止めるのは困難で、消防活動は人家などを守るので精いっぱいという状況になることも珍しくない。

豪州の消防士の多くはボランティアで、大規模火災に対応しきれないという問題も指摘されている。米国やカナダなどが消防隊を送り込んだほか、日本からも自衛隊員ら70人と輸送機2機が派遣され、救援物資の輸送などに当たっている。

■絶滅危機も

火災により、畜産農家は多くの羊や牛を失った。ブドウ畑は、焼失を避けられたものでも煙害で品質が劣化し、東部シドニー近郊や、南部アデレードなどのワイン名産地では少なくとも今後2年間、生産量の大幅低下が見込まれている。主要産業の観光への影響も免れない。経済損失は1000億豪ドル(7・5兆円)に達するとの試算もある。

火災の長期化は、さらに深刻な事態を招きかねない。世界自然保護基金(WWF)は、コアラ数千匹を含む動物12億5000万匹が、火災で死んだとみられると推計しており、被害が続けば多くの種が絶滅の危機にさらされると警告する。

◆温暖化 落雷増え土地乾燥 猛威 世界各地で

大規模な森林火災が近年、世界で相次いでいる。2019年はアマゾンの熱帯雨林やシベリア、米カリフォルニア州などで甚大な被害が出た。地球温暖化の影響が指摘されている。

国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多(せいた)・副センター長は「森林火災の全てが温暖化で起きるわけではないが、温暖化のために深刻化したといえる。温暖化が進めば、大規模な森林火災がさらに増えるだろう」と話す。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が18年に公表した特別報告書によると、世界の平均気温が1971?2000年に比べて1・2度上昇すれば、世界の約38%以上の陸地で森林火災が増え、上昇が3・5度だと約62%に上る。

そのメカニズムについて、日本大の串田圭司教授(地球環境学)は「温暖化が進むと、森林火災の一因となる落雷が増えるほか、土地も乾燥しやすくなる」と説明する。森林は二酸化炭素(CO2)を吸収し、大気中のCO2濃度の上昇を抑える働きがある。燃えた森林の回復には長い時間がかかり、串田教授は「森林が失われれば、温暖化がさらに進む要因になる」と指摘する。

今年、新たな温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が始まった。ただ、各国が掲げる現状の目標は、深刻な温暖化を食い止めるには不十分であることがわかっている。日本でも昨年は相次ぐ台風被害に襲われるなど、温暖化の影響が指摘される災害が増えている。各国はより一層、対策を強化させていく必要がある。(科学部 前村尚)

図=22日夕-25日夕に確認された森林火災
図=2019年に世界で起きた主な森林火災
写真=森林火災で一面が黒く焼け焦げた丘(23日、オーストラリア南部カンガルー島で)

 

《読売新聞 2020/01/26より引用》

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