20130525

BSE全頭検査、みんなでやめたい 自治体、横並び重視 【名古屋】


2013年05月25日

国産牛の牛海綿状脳症(BSE)=キーワード=の全頭検査について、厚生労働省が7月に一斉に中止するよう自治体に求めている。ほとんどの自治体は中止の意向で、足並みをそろえて安全をアピールしたい考えだが、生産者や消費者からは戸惑いの声も出ている。

●「継続」岐阜県、一転中止も 自治体、横並び重視

BSEをめぐっては、感染リスクが減ったとして、5月下旬の国際獣疫事務局(OIE)の総会で「無視できるリスクの国」に認められる方向で、国際的にもお墨付きを得る形になる。

厚労省は7月、BSEの検査義務の対象を、ほとんど肉が流通しない「48カ月超」に引き上げ、全頭検査をなくしたい考え。全頭検査をする75自治体のうち70自治体は、7月から中止の意向を厚労省に示している。  だが、4月に国の方針が示された当初、自治体の対応は揺れた。

ブランド牛の飛騨牛を抱える岐阜県。年間約1万5千頭を処理し、今年度の検査費用約1千万円を確保していたこともあり、古田肇知事は4月10日の会見で「今年度は予定通り(全頭検査を)やる」と表明。だが、全国的に中止の流れが固まり、中止を含めて見直しの検討を始めた。

自治体が重視するのは、全自治体が足並みをそろえて中止することと、生産者や消費者の理解を得ることだった。

朝日新聞が17日までに75自治体の首長に聞いたアンケートでも、「科学的に不要だと評価した検査を独自に行うことは風評被害につながる」(大阪市・橋下徹市長)、「全国一律に見直しをすることが大前提」(三重県四日市市・田中俊行市長)などの回答をはじめ、「県民や事業者の理解と不安解消」などを挙げる首長が目立った。

中止を検討している愛知県の担当者は「一自治体でも継続すれば、消費者の混乱を招く」と、ぎりぎりまで他県の状況をにらむ。
●「一頭でも発症なら大問題」 生産者・消費者、戸惑い

昨年度、全国で最も多い約22万6500頭を処理した北海道でも、全頭検査の中止を検討している。

22日、道が帯広市で開いたBSE対策の説明会では、生産者や消費者ら約110人が参加した。

「科学的な見地と消費者の安心には温度差がある。一頭でも発症したら大問題だ」

帯広消費者協会の男性は、全頭検査の継続を訴えた。ほかにも国産牛の安全性のアピールが足りないなどの意見が相次いだ。

士幌町にある西上加納農場の加納三司専務(58)は、腕組みして議論を聞いた。「これで消費者に理解してもらえるのだろうか」

国内でBSE感染牛が確認された後、加納さんの農場の牛肉の価格は、風評被害で4分の1に急落。その後、肉骨粉などの飼料が規制され、すべての国産牛が10桁の個体識別番号で管理された。「安心安全は担保されている」との自信はあるが、流通先が生産者に自主検査を求めてくるのではないかとの不安は消えない。

三重県多気町で松阪牛を約140頭肥育する、松本畜産の松本一則さん(55)、卓也さん(29)親子は「全頭検査があってもなくても一緒」と口をそろえる。

飼料の規制前から、えさは麦や大豆など植物性のものだけを与えてきた。それでも「消費者に不信感があるなら、検査を継続するべきではないか」と話す。

松阪牛の肥育農家でつくる松阪牛協議会の会長を務める山中光茂・松阪市長は、国の情報提供が不十分だったと指摘する。「混乱を防ぐため、もっと自治体に説明責任を果たすべきだ」と話した。

全国消費者団体連絡会(東京都)の担当者は「検査対象牛の月齢が大きく変わることへの国民の不安は、まだなくなっていない。消費者が理解できるよう丁寧な説明を」と話す。今月、内閣府の食品安全委員会に意見書を提出したという。

●小売り大手、「理解」8割 北海道調査

全頭検査の中止について、小売り大手「イトーヨーカ堂」の広報担当者は「今後の国や自治体の検査の見直し状況を見ながら、対応を検討する」と話す。プライベートブランドで国産牛肉を扱うイオンの広報担当者も「現段階では検査見直し後の対応は決まっていない」と話す。

北海道が4月、全国展開する大手スーパーマーケットを対象に調査したところ、回答のあった34社のうち8割近くが、検査対象月齢を引き上げることについて「理解する」と回答したという。  (小林直子)

■BSEの全頭検査への対応

《自治体名》埼玉県
《今年度の対応》中止する
《理由》国の調査では多くの自治体が全頭検査廃止の方向性のため、歩調を合わせることが望ましい

《自治体名》名古屋市
《今年度の対応》まだ決めていない
《理由》自治体ごとで対応が異なることは、消費者に不安や混乱を招く。動向を把握しながら方針を決定したい

《自治体名》香川県
《今年度の対応》まだ決めていない
《理由》県民への十分な説明ができていないので、現段階では、決定に至っていない

《自治体名》佐世保市(長崎県)
《今年度の対応》まだ決めていない
《理由》全頭検査を継続することで、国産牛肉の安全性について誤ったメッセージを発信することにつながる

《自治体名》熊本市
《今年度の対応》中止する
《理由》国は科学的見地から全頭検査の必要性はないとしており、他の自治体と足並みをそろえて終了する方針
(朝日新聞が畜産処理場を持つ75自治体に実施したアンケート結果より)

◆キーワード

<牛海綿状脳症(BSE)> たんぱく質の一種であるプリオンの異常化で、牛の脳がスポンジ状になる病気。国内では2001年9月に初めて発生し、これまでに36頭の感染が確認された。

国は同年10月、食肉処理されるすべての牛にBSE検査を義務づけ、検査費用を全額補助した。その後、検査対象を月齢21カ月以上の牛に狭め、08年、20カ月以下の牛への補助を打ち切ったが、処理場を持つ75自治体が自主的に全頭検査を続けていた。

【写真説明】

兵庫県但馬産の子牛に麦や大豆などの飼料を与えて育てる松阪牛=三重県多気町
北海道が主催したBSE対策に関する説明会=北海道帯広市
《朝日新聞社asahi.com 2013年05月25日より引用》

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です