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(2013参院選)選挙目当てで農政いじるな 名古屋大大学院教授・生源寺真一さん


2013年05月16日

安倍政権は「攻めの農業」を掲げる前に、農業基本法を継いだ食料・農業・農村基本法(1999年施行)以降の農政を総括すべきです。規模を問わず全ての農家に支払う「戸別所得補償」を看板に民主党が勝った2007年参院選以降、農政は選挙対策が露骨すぎる。TPP絡みで農政をいじると失敗します。

戦後の農政は、食糧確保を最優先にした55年までと、経済の高成長に農家を対応させた時代、そしてバブル崩壊後に区分できます。

高度成長期には他産業並みの所得をめざす自立経営農家の育成がうたわれ、畜産、果樹、施設園芸など狭い土地で手間ひまをかける「集約型農業」が伸びました。

対照的に、まとまった土地がいる「土地利用型農業」はいまだに弱いままです。特に農業人口の大部分を占める水田作で生計を立てられる農家は少ない。耕作面積は平均1・5ヘクタールほどで、多くが兼業農家です。

20年前までは問題がさほど表面化しませんでした。昭和ひとけた生まれと、その子どもの団塊世代がしっかり米作りをしていたからです。ところが孫にあたる団塊ジュニア世代は、田植え機の普及などで親の米作りを手伝ったことがないケースも多い。稲作農家の平均年齢は60代後半で、継続に黄色信号が出ています。

水田作では生産調整(減反)を徐々に廃止すべきです。米価が下がった分は、職業として農業を営む専業・準専業の農家や農業生産法人といった「農業の担い手」を支える直接支払いに力点を置く。彼らは規模拡大のために農地を借りるので、助成金は農地集約にも有効です。

ただ、私が描く規模拡大は、政府がいう単純に面積を広げるだけの大規模化とは違います。日本の稲作は機械や資材の使い方を含めて考えると10~20ヘクタールで生産効率が十分高い。この規模の担い手を数集落にひとつ育て、周囲には定年帰農や趣味で米作りをする人がいてもいい。担い手が環境によい技術を伝え、趣味の農業人も用水路の管理作業に参加するといった互恵的な関係も期待できます。

幸い団塊ジュニア以下層には農業に魅力を感じる若者が多い。農業生産法人なら農家出身でなくても就農できるし、農業技術を身につけられる。食品加工の要素を農業が取り込めば、地方の雇用も生まれる。農政は20年後、30年後を見据え、できること、できないことを見極めて構想すべきです。

(聞き手・高野真吾)

しょうげんじしんいち 51年生まれ。農水省農事試験場研究員、東京大大学院教授などを経て11年から現職。著書に「日本農業の真実」。

【写真説明】

生源寺真一さん

 

《朝日新聞社asahi.com 2013年05月16日より引用》

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