骨太方針、痛み封印 経財会議が素案提示 年金・医療、見えぬ具体策
2013年06月07日
安倍政権が「骨太の方針」を4年ぶりに復活させた。しかし、参院選を7月に控え、財政再建や社会保障見直しといった国民に厳しい政策にはほとんど触れていない。業界から反発が出るような改革にも踏みこまず、「骨」のない方針になった。▼1面参照
6日の経済財政諮問会議で安倍晋三首相はこう強調した。「日本経済再生の10年のシナリオを描いていただいた」。だが、ある経済官庁幹部は「『骨細』と言われてもしかたない」とつぶやく。
確かに財政再建の目標は維持した。だが、どんな予算をカットするのか、高齢化で増え続ける年金や医療の費用をどう抑えていくのか、という課題にはしっかり答えていない。
むしろ目立ったのは表現の後退ぶりだ。
諮問会議では、学者や経営者の「民間議員」4人が財政再建目標の達成が「不可欠」と提言を出そうとした。しかし、政権内から異論が出て、達成を「目指す」に書きかえられた。
地方交付税をめぐる書きぶりも後退した。
政府が自治体に配る地方交付税は2008年のリーマン・ショック後、毎年特別な上乗せがある。12年度予算では約1兆円だ。
財務省はこの上乗せを減らすよう求め、当初は「危機以前の状況に向けて適正化を図っていく」と書かれていた。ところが、自治体などの猛反発で「平時モードへの切り替えを進めていく必要がある」という表現に弱められた。
社会保障費を抑えることにも取り組んでいない。
増え続ける医療費は電子レセプト(医療費の請求書)の活用や地域医療体制の見直しなどによる効率化が中心で、以前から指摘されてきたものばかりだ。
年金は、政府の社会保障国民会議で受け取り始める年齢の引き上げがテーマになっているが、素案には盛り込まれなかった。
こうした「骨抜き」の背景には7月の参院選がある。選挙が終わるまでは成長戦略を中心に「バラ色」の政策を掲げ、社会保障費削減のような「痛み」を伴う財政再建策をあえて封印する戦略だ。
ここには「財政至上主義で実体経済が低迷してしまえば、財政再建は夢の夢だ」という安倍首相の意向も反映している。まず経済を大きくして税収を増やしていこうという考えだ。
一方、素案は生活保護の削減に踏みこんだ。今年度予算で生活費減額などで670億円を削ったのに続き、来年度以降も住宅費などを減らす方向を示した。
年金や医療を削れば、高齢者や医師会などの反発を買って選挙にも影響しかねない。生活保護の削減なら選挙への影響は少ないだろうという思惑も透けてみえる。(大日向寛文)
■選挙にらみバラマキ圧力
骨太の方針が歯止めにならず、自民党内からは来年度予算案での大盤振る舞いを求める声が強まっている。
「地方では参院選を控えて、緊縮財政になるんじゃないかと心配している」(宮路和明・元厚生労働副大臣)。5月末の党の会合では、骨太の方針で財政再建も強調しようとすることに批判が集中した。
公共事業、中小企業、地方対策……。参院選を控え、党内の圧力は高まる。
「国土強靱(きょうじん)化」の旗を振る二階俊博総務会長代行は6日、記者団に「強靱化に向けた適切な対応は与党の責任だ」と強調した。こうして財政出動にブレーキをかける動きにくぎを刺す。
大島理森前副総裁も自らの派閥の会合で「円安で厳しい影響を受けている分野がある。そういう方々にも心配りするのが国民政党だ」と訴え、燃料やえさ代の高騰に苦しむ漁業者や畜産農家への対策を求めた。
しかし、日本の財政は火の車だ。安倍政権はすでに景気対策のために借金をふくらましており、政府の借金残高は来年3月末で約1千兆円に達する。
ただでさえ金融緩和の影響で市場が混乱し、(政府が借金のために発行している)国債の金利は乱高下している。日本総合研究所の河村小百合氏はさらに借金が増えれば、「国債の信用が落ちて売られ、金利が上昇(価格が下落)して利払い費も増え、財政はさらに苦しくなる」と警告する。
基礎的財政収支の黒字化は国際公約。財政再建は国際社会の信用にもかかわる。9月の主要20カ国・地域(G20)サミットでは道筋を説明しなければならない。
このため、政権は参院選後の8月をめどに財政再建計画をつくる。だが、国民は「苦い話」を知らされないまま参院選に臨まなければならない。(大津智義)
◆キーワード
<骨太の方針> 政権が進める財政・経済政策の基本方針。首相が議長を務める「経済財政諮問会議」でまとめる。小泉純一郎政権時代の2001年、官僚主導ではなく、首相官邸が政治主導で予算をつくるために始まった。来年度予算案づくりに着手する前の6月に閣議決定する。民主党政権は諮問会議と骨太の方針をやめたが、第2次安倍政権が復活させた。
■財政をめぐる今後のスケジュール
6月14日 「骨太の方針」を閣議決定
7月21日 参院選投開票(予定)
8月 「中期財政計画」「来年度の予算編成方針」を決定
9月5~6日 主要20カ国・地域(G20)サミット(ロシア)で財政再建計画を説明
10月ごろ 消費税率を8%に引き上げるかを最終判断
12月 来年度予算案を決定
来年4月 消費税率が8%に(予定)
【写真説明】
経済財政諮問会議で発言する安倍晋三首相(左手前から2人目)。左は甘利明経済再生相、正面右は日銀の黒田東彦総裁=6日午後6時22分、首相官邸、仙波理撮影
【図】
「骨太の方針」は財政再建の道筋を示していない
《朝日新聞社asahi.com 2013年06月07日より引用》