(社説)農業政策 もうバラマキはやめよ
2012年12月31日
限られた予算を有効に使い、経営規模を大きくし、競争力を高めていく――。日本の農業の課題ははっきりしている。
焦点は、民主党政権が導入した戸別所得補償の見直しだ。
とくに、米作について一定の条件を満たせば、零細・兼業を含むすべての農家を支払い対象とする仕組みである。田を貸したり譲ったりする動きにブレーキをかけ、規模拡大への妨げになっている。
自民党は「バラマキだ」と厳しく批判してきたが、どうも雲行きが怪しい。
総選挙での公約と政策集には次のような文言が並ぶ。
政権交代後、大幅に削減された予算を復活させる▼農地を農地として維持することに対価を支払う日本型直接支払いの仕組みを法制化する▼コメに加えて麦、大豆、畜産、野菜、果樹など、多様な担い手の経営全体を支える……
民主党政権が切り込んだ農業関係の公共事業費を元に戻し、農家への支払いはさらに手厚くする、ということか。
自公政権は07年、すべての農家へ品目別に支払ってきた補助金を改め、1戸あたり4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)の農家に絞って所得補償する制度を導入した。農業の大規模化をめざし、「戦後農政の大転換」と言われた改革だ。
しかし、農業関係者の反発にあい、同年の参院選で敗北する一因となった。その後、制度は骨抜きになっていく。
09年には当時の石破農水相が生産調整(減反)の義務づけをゆるめる「減反選択制」に意欲を見せたが、党内や農協の反対で断念した。この年の総選挙で惨敗し、政権を明け渡した。
今回の公約は、農業票を強く意識した結果だろう。しかし、わが国の財政に大盤振る舞いする余裕はない。バラマキが農業の体質を一層弱めかねない危うさは、自民党が最もよくわかっているはずだ。
民主党政権は、コメ農家などの経営規模を20~30ヘクタールと現状の10倍程度に広げる目標を打ち出した。農林漁業に加工と販売を組み合わせる「6次産業化」推進のためのファンドや、新規就農者に年150万円を出す給付金制度も立ち上げた。
大規模化への障害は何か。ファンドや給付金は一時的なバラマキに終わらないか。これらの点検も必要だ。 選挙のたびのバラマキ合戦に終止符を打ち、農業の再生に必要な政策を練り直す。「責任政党」を自覚するなら、まっとうな姿勢を見せてほしい。
《朝日新聞社asahi.com 2012年12月31日より引用》