20111103

警戒区域、放れ牛捕獲 福島・南相馬、放射線研究に利用


2011年11月03日

福島県南相馬市小高区の山あいに、新しい鉄パイプの柵で囲まれた一画があった。柵に近づくと、25頭の牛の群れがこちらにゆっくり歩んでくる。

東京電力福島第一原発から20キロ圏の警戒区域内に2日、記者が入った。調査を続けている高邑勉・衆議院議員(民主)に同行した。

原発事故で農家が避難した後、放たれたり自力で脱出したりした、いわゆる「放れ牛」。警戒区域を徘徊(はいかい)しているところを同市職員が捕獲、保護し、牧場に移して飼っている。

茶色の牛と白黒の牛。通常別々に飼育される肉用牛と乳牛が一緒にいる。「最初は分かれていましたが、もう今は混在しています」。市農林水産課主査の松本弘樹さん(39)が教えてくれた。週2回、牧場を訪れてエサを与えている。

しっぽを揺らしながら牛が真っ黒な目で見つめてくる。柵のすき間から頭を出してくる人なつこさ。同行したカメラマンが提げるカメラをなめようとする牛もいた。

やはり警戒区域にある別の牛舎にも、捕獲された牛を含む49頭がいる。牧場の所有者は避難し、牛舎の柱にクモの巣が幾重にもかかっている。生後2カ月ほどの子牛がふるえながら母牛の乳を吸っていた。

南相馬市は8月下旬から放れ牛の捕獲を始めた。牛に家を荒らされる被害が相次いだためだ。市農林水産課主査の渡部利幸さん(49)は「牛は塩を好む。納屋に入り込んでみそを食べているようです」と話す。窓ガラスを割ったり車を傷つけたりしているという。

飼い主の許可を得られた牛は、放射線の影響などを調べる研究に使われる。複数の機関による共同研究が年内にも始まる。

高邑議員は「警戒区域内の牛の『除染』をできないか。もう一度、畜産をできるようにしないと復興につながらない」と訴える。

●1000頭が野生化か

福島県によると、2010年8月時点で、警戒区域内では約3500頭の牛が飼われていた。震災後、多くは牛舎に残されたまま死んだが、一部は「放れ牛」となった。

県はこうした野生化した牛が警戒区域内全体で1千頭前後にのぼるとみている。福島県警によると、放れ牛が車両に衝突する事故が、10月25日までに11件起きている。

警戒区域内に残された牛は、飼い主の同意を得た上で安楽死させるのが基本だ。警戒区域を抱える自治体のうち南相馬市や富岡町、川内村では、えさでおびき寄せる「囲い込み」や畜舎に戻った時の捕獲を開始。研究用にも飼育している。だが、放射線量が高く、捕獲は容易に進まないのが実情という。

(川田惇史、木村俊介)

朝日新聞デジタルに動画

【写真説明】

(上)警戒区域内の牧場では、牛が逃げ出して民家などを荒らさないように鉄パイプの柵が設置されている(下)警戒区域内の牛舎では週2回、市職員がエサを与えている=いずれも2日午前、福島県南相馬市、加藤丈朗撮影

《朝日新聞社asahi.com 2011年11月03日より引用》

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