東電に3億2860万円請求へ 原発事故で牛肉価格暴落 農協など /青森県
2011年10月25日
福島第一原発の事故で牛肉価格が暴落した問題で、農協などでつくる農畜産物損害賠償対策県協議会は24日、今年7、8月分としてまず3億2860万円を東京電力に請求すると決めた。県内120団体・個人の3347頭分で1頭平均9万8千円。だが、畜産農家からは「全然足りない」「資金繰りはもう限界」と悲鳴があがる。
県内畜産関係の東電に対する損害賠償請求額がまとまるのは初めてだ。原発事故後、影響が出た7、8月分をまず請求したという。
全国農協中央会(全中)が全国分をとりまとめ、11月15日に一括して東電に請求する。県農協中央会によると、年内中に東電から支払いがある見込みという。
請求は、各畜産農家が1頭ごとの生産費から実際の販売額を差し引き、積算した。今回算定が間に合わなかった分や、子牛の販売農家の減収分については次回以降に請求するため、請求額はさらに膨らむという。
この日、青森市で開かれた会議では、十和田おいらせ農協幹部から「農家は資金繰りに困っている。支払いをできる限り急いでほしい」との意見が出ていた。
◆「払われても赤字」
「賠償金が払われても赤字のままだ」「神経をすり減らした苦労はとても賠償額にみあわない」――。24日、県内の畜産農家からは原発事故後の風評被害への悲鳴が相次いだ。
肉牛9100頭を飼育する金子ファーム(七戸町)。金子春雄社長(60)は「原発事故後は単価が3分の1から5分の1に下がり、豚肉より安い。売るほど赤字だが、エサ代が膨らむのを避けるため、売るしかない」と嘆く。
同社は、食肉メーカーなどに毎月600頭以上出荷してきたが、原発事故後は顧客から「東北の牛はいらない」などと敬遠されるケースもあり、出荷が月500頭に減った。出荷適齢期を過ぎた100頭以上が毎月牛舎に残り、エサ代はかさむ一方だ。
金子社長は「経営計画が狂い、資金繰りが厳しい。数字に出てこない被害がある。40年の畜産生活で一番厳しい」と訴える。
ブランド化を進めてきた「あおもり倉石牛銘柄推進協議会」副会長で、五戸町で倉石牛約100頭を飼育する沼沢利夫さん(55)は毎朝、インターネットなどで東京都の市場での落札額を見て、ため息をつく毎日だ。
従来、1キロ2300~2400円で売れた倉石牛が1700円前後。「売れても赤字。損害賠償も仕組み上、最低限の金額しか請求できなかった」と話す。
それでも月7、8頭は出荷する。沼沢さんは「適齢期をすぎた牛を牛舎に残し、1頭でも飼育中に死ねば今度はBSE(牛海綿状脳症)の疑いがかけられる。経営に大打撃で、一番こわい」と話す。厳しい経営で家族の神経もすり減った。「精神的な苦労を考えると、とても賠償額はみあわない」
つがる市の「市屏風(びょうぶ)山畜産組合」では、17の畜産農家が主に子牛を販売して生計を立てているが、今回は損害賠償対象から見送られた。
同組合によると、原発事故後、1頭40万円超で売れていた子牛が5万~10万円値下がりした。1頭二十数万円の経費がかかり、既に採算ラインぎりぎり。松橋春彦事務局長は「このままなら、廃業する農家が出てくる」と心配する。
全国で肉牛の出荷が減った結果、子牛の販売数も減ったといい、松橋事務局長は「子牛が売れない、売れても安い、飼い続けるとエサ代がかさむ、という『三重苦』です」と話した。
【写真説明】
県内で飼育される肉牛。福島第一原発の事故の風評被害で今も畜産農家は苦しんでいる=ゆうき青森農協提供
《朝日新聞社asahi.com 2011年10月25日より引用》