たまり続ける福島の牛 出荷停止解除1カ月、焦る農家
2011年09月30日
福島県の肉牛の出荷停止が解除されてから1カ月が経った。食肉処理の能力の問題から、出荷は以前のペースにはほど遠く、牛が農家のもとにたまり続けている。出荷時期を過ぎた牛の買い上げもはかどらない。収入が途絶えたままの農家からは悲鳴が上がる。
東京電力福島第一原発から約100キロ離れた福島県喜多方市。約300頭の黒毛和牛を飼育する湯浅治さん(60)は、7月4日の1頭を最後に、もう3カ月近く出荷できていない。
震災後も毎月15頭近くを出してきたが、止まったまま。事故後に集めた稲わらを一部の牛に与えていたため、県外へは出荷できず、県内唯一の処理場の順番を待つしかない。「国も県も当時はわらのことを言わなかった。気にもとめなかった」と話す。出荷時期を過ぎた牛は約50頭に膨らんだ。「病気にかかりやすくなっている」と心配する。
出荷時期を過ぎた牛は県が買い上げるが、1頭84万円が上限。「会津牛」のブランドを守るため、値が張る子牛を購入してきた湯浅さんにとっては採算割れだ。13頭の買い上げを申請したが、認められたのは7頭。「稲作もしているのでコメは食べられるが、おかずがない」と訴える。
出荷を再開できた農家も、資金繰りに苦しむ。
県南部の矢吹町で約560頭を飼育する諸根茂喜さん(40)は27日、出荷停止解除後初めて、3頭を東京の処理場に出荷した。
7月9日を最後に出荷が止まり、収入が途絶えた。月約700万円かかるエサは8月以降県から支給されたが、「牛を売らないと生活費が入らない」。62頭の買い上げを申請したものの認められたのは30頭。3~6月分の風評被害の賠償として約1千万円を東電に請求したが、入金はまだない。
出荷の順番は回ってきたが、消費者に受け入れられるか。不安は尽きない。
両親と妻、幼い娘4人と暮らす。預貯金を取り崩しての生活だ。「畜産をすぱっとやめるか、続けるか」。悩んだ末、答えを出した。「数年後には元に戻ると信じて、乗り越えたい」(曽田幹東、有吉由香)
●処理場の能力追いつかず
福島県産の牛肉から国の基準を超える放射性物質が検出され、肉牛が出荷停止になったのは7月19日。8月25日に解除されたが、出荷のペースは鈍い。
出荷先はしばらく、県内唯一の郡山市の食肉処理場だけだった。県が委託した機関による検査態勢が整い今月16日に県外約15カ所への出荷が可能になったが、実際に出荷されたのは28日までに2カ所への197頭にとどまる。県内での処理能力は1日36頭で、県外への出荷分と合わせても、1日平均約130頭だった出荷停止前のペースとは隔たりがある。
県は、出荷時期を過ぎた牛の買い上げ▽無利子融資▽エサの現物支給――の支援策をまとめたが、買い上げは遅れている。当面約1500頭との想定より約1千頭多く申請があったためだ。
同じく出荷停止が解除された宮城、岩手、栃木各県の担当者は「出荷ペースは戻りつつあるが、価格が戻らない」と口をそろえる。「消費者の信頼が戻っていない。安全をPRしていきたい」と話す。
【写真説明】
湯浅治さんの牛舎には、出荷を待つ牛がひしめいていた=25日、福島県喜多方市、金子淳撮影
《朝日新聞社asahi.com 2011年09月30日より引用》