ゲノム編集、「国産」技術 変異部分狙い切除 東大・阪大など開発
2019年12月07日
東京大や大阪大などの研究チームが、「ゲノム編集」と呼ばれる遺伝子操作について新しい技術を開発し、筋肉の力が衰える難病患者の細胞で、原因遺伝子を修復することに成功した。研究成果を6日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。
ゲノム編集は、DNAを狙い通りに書き換える技術で、近年注目されている。東大の真下知士(ともじ)教授(動物遺伝学)らは、従来のゲノム編集技術に使うたんぱく質に似た「Cas3(キャススリー)」というたんぱく質に注目。DNAで狙ったところを、大きな範囲で削る力があることを突き止めた。
そこで、筋肉の難病「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」の患者から作ったiPS細胞で実験した。この病気は遺伝子の変異で、たんぱく質の一種ができなくなり、筋力が落ちる。原因遺伝子にCas3を使うと、変異部分がごそっと削られ、不完全ではあるが、たんぱく質ができるようになった。
従来の方法では、狙ったところ以外でも遺伝子が書き換えられてしまう問題があった。今回の方法は、正確性が高いという。真下さんは「ゲノム編集技術は海外が先行しているが、国産の技術によって国内の企業が利用しやすくなるのではないか」と話す。(後藤一也)
■費用かさむ「海外産」代替も
「ゲノム編集」は、生物の遺伝情報を、狙い通りに書き換えられる画期的な遺伝子操作の技術だ。農畜産物の品種改良から医療まで幅広い使い道があり、ノーベル賞候補にも挙げられる。
最もよく使われているゲノム編集技術は、海外で開発されたCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)で、産業で使おうとすると、巨額の特許使用料がかかる可能性がある。そのため、国産技術の開発が求められていた。論文の著者の1人で、日本ゲノム編集学会長の山本卓・広島大教授は「Cas3の適切な応用法が見つかれば、Cas9に置き換わる国産技術として、産業に利用される可能性がある」と話す。
Cas3の特許は、論文発表の前に手続きが進められ、日本ではすでに認められた。ただ、海外では似た特許があり、世界で特許がどの程度認められるかは不透明という。(編集委員・瀬川茂子)
【図】
新しいゲノム編集技術のイメージ
《朝日新聞社asahi.com 2019年12月07日より抜粋》