家畜窃盗 深まる謎 北関東で800頭超 転売困難
2020.09.20
北関東で畜産農家から豚や牛が持ち去られる事件が相次いでいる。群馬、栃木、茨城、埼玉の県境付近の半径50キロ圏内で、800頭以上が消え、被害総額は3000万円を超える。警察は窃盗事件として捜査しているが、豚や牛の転売は難しく、誰が、何のために盗んだのか、謎は多い。

◆養豚場を熟知?
「養豚場の設備や飼育環境を熟知しているのでは」。1〜8月に豚約680頭が盗まれた本州最大の豚の産地・群馬県。JAの担当者は犯人像をこう推測する。
被害の大半は前橋市北部だ。一度に約100頭が消えた養豚場は、高さ約60センチのパネルで囲っただけの簡易型豚舎だった。複数回にわたり計約400頭が盗まれた養豚場は、被害に気づくのが遅れた。豚は群れで管理するため、盗難が少しずつだと分かりにくいという。
栃木県足利市では6〜8月に子牛6頭が盗まれた。防犯カメラには、深夜に侵入した3人が牛の脚を縛って、運び出す様子が映っていた。被害に遭った「鶴田ファーミング」の鶴田一弘社長(58)は「手慣れた様子だった」と話す。
◆自分たちで消費か
豚や牛はどこに消えたのか。牛の耳には、10桁の個体識別番号が記された「耳標(じひょう)」が付けられ、耳標がないと、市場に出せない。耳標が付いたまま、食肉処理場に持ち込まれれば、番号から盗品とわかってしまう。
豚には個体識別番号の付与が義務づけられていないが、厚生労働省の担当者は「食肉業界は狭く、付き合いのない人が処理場に解体を申し込めば、不審がられる」と指摘する。
被害が生後50日ほどの子豚(20〜30キロ)や、子牛(30〜50キロ)に集中しているのも不可解だ。運搬はしやすいが、農畜産物流通コンサルタントの山本謙治さん(49)によると、子豚や子牛は脂身が少なく、国内需要はほとんどない。イタリア、中国料理店の一部で食材として使うが、仕入れ先は決まっているという。

太らせて出荷するにしても、餌代や飼育場の確保など多額の費用がかかる。「盗んだ人が自分たちで消費するしかないのではないか」とみる。
◆不審な書き込み
4県警は情報を共有し、グループによる犯行の可能性があるとみている。
SNSへの不審な書き込みにも注目している。群馬県警によると、東南アジアの言語で「豚を売る」という投稿が複数あったが、事件が報じられた8月下旬以降、大半が削除された。
東南アジアの一部地域では子豚を食べる習慣があるという。捜査関係者は「削除のタイミングから見て、SNSを介して売買されていたのかもしれない」と指摘する。
図=家畜の盗難被害状況
写真=子牛が運び出される様子を映した防犯カメラの映像。この後、荷台のドアが開かれた車(右上)に載せられた(8月22日、栃木県足利市で)=鶴田ファーミング提供
《読売新聞 2020/09/20 より引用》